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ラブ「雨ばっかでつまんないなー」 せつな「そう?私は好きよ」 ラブ「どうしてさー。遊びに行けないしダンス練習だって出来ないじゃん!」 せつな「ふふ。相変わらず子供なんだから。」 ラブ「へ?」 せつな「こうして二人っきりになれるじゃない。」 ラブ「あ…」
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≪プリンセス号の中のとある一室≫ コンコン 「祈里、入ってもいいかしら?」 「ええ、もう着替え終わったから大丈夫よ。」 「外で待っててくれてもよかったのに。……ラブちゃん達は?」 「シフォンと一緒に遊んでるわ。」 「ねぇ祈里。」 「なぁに?せつなちゃん?」 「ほんとにどこも怪我してないのね。」 「ええ、大丈夫よ。」 私がそう言うとせつなちゃんは私の手をギュッと握った。 「よかった。」 「も~心配しすぎだよ、せつなちゃん。」 私は笑いながら答える。 「ごめんなさい。」 「えっ?」 私はせつなちゃんの突然の謝罪に驚いてしまった。 「本当は直ぐにでも駆けつけたかった……でも、ラブと美希だけじゃこの船は止められない…、 それにウエスターも何時仕掛けてくるか分からなかった…だから……だから…。」 …だから駆けつけることが出来なかった…ごめんなさい……とせつなちゃんは言いたいんだろうなぁ。 「だからごめんなさい?」 そう尋ねるとせつなちゃんは首を縦に振った。 う~ん、でもせつなちゃんが謝るようなことは全くないと思うんだけどなぁ……だって… 「謝らないで、せつなちゃん。」 「……私がソレワタ―セを倒せたのはせつなちゃんの……ううん、皆のおかげだもの。」 「えっ?」 今度はせつなちゃんが私の言葉に驚いている。 「多分あのソレワタ―セは外側が強化されてた分、中心部分が弱かったと思うの。」 「だから私がソレワタ―セを倒せたのはラブちゃん、美希ちゃん、それにせつなちゃんが外で この船を食い止めてくれていたおかげなの。だからねせつなちゃん……謝らないで。」 「祈里…。わかったわ……さっきのごめんなさいは取り消すわ。その代わり…。」 せつなちゃんが握っていた手を離した。 「ありがとう祈里。」 ふわりと温かい何かに包まれる。 「ソレワタ―セを倒してくれて……無事に戻って来てくれて。」 「せつなちゃん……。」 「……これなら受け取ってもらえるかしら。」 「ええ、もちろん。……ふふっ…それじゃあ私も……ありがとうせつなちゃん。」 「ソレワタ―セを食い止めてくれて……心配してくれて。」 「……と、当然よ。」 あっ、ちょっと照れてる。 「ふふっ。」 「ん?どうしたの祈里?」 「ううん、なんでもない。」 そう言って私はそっとせつなちゃんを抱きしめ返す。 照れてるせつなちゃんが可愛いかった…なんて言えない。 言ったらせつなちゃん、きっと離れちゃうもの。 そんなの駄目……だって今はまだせつなちゃんの温もりを感じていたいから。 END
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元スレURL あゆハーSS 概要 あゆ誕2021 様々なシチュであゆハー短編集 タグ ^上原歩夢 ^虹ヶ咲 ^高咲侑 ^あゆハー 名前 コメント
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第30話『帰ってきたせっちゃん――ある日のせっちゃん。天まであがれ!(後編)――』 四人は大凧を公園に運んできていた。運ぶこと自体は大変ではなかった。 その大きさに比べて、驚くほどに軽いのだ。それでいて、とても頑丈にできている。あらためて大変なものだと感心する。 せつなは緊張した面持ちでタコ糸を握る。凧の骨組みは強靭で、生地も和紙ではなく布地だった。糸もとても丈夫な素材で作られていた。 揚げ方の簡単な説明は聞いていた。でも、それは主に怪我をしないための配慮であり、成功を願った助力ではなかった。 ラブと美希が左右から凧を支える。引っ立てと呼ばれる役目だ。凧の糸が張った瞬間に上に押し上げるように離す。 祈里は尾っぽ係りだ。尻尾が絡まないように束ねて、凧の浮上と共に手を離す。 揚げるのはせつな一人。それがせつなから切り出した約束だった。 周囲には軽く人だかりができていた。 ジャージ姿の女の子が、大きな凧を抱えて揚げようとしているのだ。人目に付かないようにするなんて不可能だった。 中にはおじいさんの姿もあった。大凧揚げは危険を伴う。観衆が近寄り過ぎないようにロープを張っていった。 「ラブ、美希、ブッキー、準備はオーケーよ。行くわ!」 『オーライ!』 十分な準備運動を終えたせつなが助走のモーションに入る。 ラブたちはカウントを数える。 「「「3――2――1――」」」 『GO!!』 『帰ってきたせっちゃん――ある日のせっちゃん。天まで上がれ! (後編)――』 勢いよくせつなが走り出す。放たれた凧が上昇していく。周囲から歓声が巻き起こる。 しかし、それも長くは続かなかった。 風が弱くて浮力が足りないのか、せつなの揚げ方に問題があるのか、たちまち失速して落下してしまった。 がっかりする人々。表情一つ変えないおじいさん。せつなたちは黙々とスタート地点に凧を戻す。 容易なものではないことくらい、始めからわかっていた。 大切な凧を傷付けないように、慎重に準備してから再び走り出す。 しかし、やはり十メートルも揚がらないうちに落下してしまう。 せつなたちはあきらめず、何度も何度も繰り返した。 飽きたのか、諦めたのか、観衆は一人、また一人と去っていく。 開始から一時間が経過したところで、せつなの足がもつれて転倒した。三人が駆け寄る。 せつなの息は上がり、足も腕も震えていた。 大凧の抵抗を受けながら全力で走る。それはタイヤをいくつも引いてダッシュを繰り返すようなものだ。 体力には自信のあるせつなにも、相当に過酷な負担であった。 「せつなちゃん、もうあきらめよう。こんなの一人で揚げられるわけない」 「大凧って、何人かで協力して揚げるんじゃなかったっけ?」 「せつな……。大丈夫?」 「あきらめないわ。無理をお願いするんだから、こっちも無理を通さなきゃいけないの」 せつなは立ち上がり、ふらふらと落下した凧を取りに向かう。 全長四メートル。大凧としては小さな部類に入る。体格のいい慣れた男性なら、一人で揚げてしまう人も存在する。 でも、せつなの体は女性の中でも決して大きい方ではなかった。まして凧揚げなんて、生まれて始めての経験だった。 その後も、休憩を挟みながら凧揚げは三時間も続いた。空が暗くなり、これ以上は無理と判断する。 「気は済んだか? 根性は認めてやるがもう諦めろ。凧は返してもらうぞ」 「待って――ください! まだ降参はしていません!」 「まだやるつもりなのか?」 「期限は決めてないはずです。揚がるまでやります!」 「――好きにしな。凧は壊しても構わねえが、怪我だけはするんじゃねえぞ」 「ありがとうございます」 せつなは寒い中を一日中付き合ってくれた、ラブと美希と祈里にも丁寧にお礼を言った。 明日からは、なんとか一人でやれるように工夫するからって。 みんな何かを言いかけて、その言葉を呑み込んだ。せつなは一度言い出したら、決して聞くような性格ではなかったから。 夕刻の桃園家の食卓。 色鮮やかなお刺身が並ぶ。今夜は手巻き寿司だった。 熱々のお吸い物から湯気が立ち昇る。とても楽しい食事になるはずだった。 だけど――そこに、せつなの姿はなかった。 「ラブ、せっちゃんはどうしたんだ?」 「どこか、具合でも悪いの?」 「そうじゃないんだけど……。凄く疲れてるみたいで、部屋に戻るなり寝ちゃったの」 「凧揚げね、女の子の遊びじゃないのに……。無理して体を壊さなきゃいいけど」 「起こせないのか?」 「ごめん、起こしたくない」 いつもなら、花が咲いたように明るい桃園家の食卓。でも、せつなが一人いないだけで凄く寂しくて。 みんな口数も少なく、静かに食事を終えた。 コンコン コンコン コンコン 時間を開けながらの三回のノック。あゆみがお盆を抱えてせつなの部屋の前で待つ。 普段なら、寝ていても足音だけで目を覚ますような子だ。よっぽど疲れているんだろうと思った。 「おかあさん、ごめんなさい。こんな時間になってるなんて……」 「いいのよ。お雑煮を作ってみたの、これなら消化もいいわ」 一階に降りてちゃんと食べると言うせつなに、あゆみは部屋で食べることを促す。 少し二人で話したいと思ったのだ。 美味しそうにお餅を食べるせつなを、あゆみは優しく見つめる。 別に病気って訳ではないのだから、目が覚めれば元気なものだった。 食べている中で、せつなの手のひらが赤く擦り剥けていることに気が付く。少し血がにじんでいるようだ。 あゆみは救急箱を取りに戻り、手当てをしながら今日の出来事を詳しく聞いた。 「そうだったの。できるなら止めたかったけど、それじゃあ無理ね」 「心配かけてごめんなさい」 「いいのよ、わたしも職人の娘だもの」 「源おじいさまって、どんな方だったんですか?」 「その方と似てるわよ。一針一針心を込めて縫いこんでいくから、畳には価値があるんだって」 「職人って、幸せに対して妥協しない人のことなのね」 「そうね、機械縫いの畳や絨毯なんかとは最後まで相容れない人だった」 そして、そんな自分が時代から取り残される存在であることにも気が付いていた。 だから、圭太郎に跡を継ぐことを勧めなかったんだって。 心が痛む。ここにも――居たんだ。幸せの輪から外れそうになりながらも、懸命に頑張っていた人が。 きっと、おじいさんと同じような寂しさを感じながら畳を縫っていたんだと。 その技術が自分の代で途絶えることを知りながらも、決して最後まで信念を曲げなかったんだと。 「おかあさん。私はおかあさんが買ってくれたこのベッドも好きだし、ラブの畳のベッドもどちらも好きよ」 「うん、そうね。それでいいのよ」 「凧も、おじいさんのためだけに揚げてるんじゃないの。何一つ上手くいかない凧揚げが、楽しいと思ったの」 「せっちゃんを手こずらせるなんて、その凧も相当なものね」 「うん、だから――思い切ってぶつかってみる。凧にも! おじいさんにも!」 せつなは瞳を輝かせてあゆみに宣言した。精一杯がんばるわって。 あゆみも、それでこそわたしの娘よって、そう言ってせつなを抱きしめた。 そして、紙袋をせつなに手渡す。 それは、圭太郎がデパートを駆け回って探してきたもの。柔らかい羊の毛皮で作られた手袋だった。 これなら手の感覚を妨げずに、糸の摩擦から手を守ってくれる。彼もまた、せつなが諦めないことを確信していたのだった。 早朝の公園。せつなは凧を支えるための台を作ろうとしていた。棒状で地面に差込むタイプだ。 物干し竿の台座のような形状で、少し引っ張れば倒れてしまうように浅く差し込む。万が一にも凧を引っ掛けないための配慮だった。 しかし、いざやってみると思うようにいかない。昨日よりも更に浮上具合が悪いように感じた。 手を離す瞬間に、軽く上に押し上げてもらう。ほんの小さな力なのだが、それがないことが原因だと思えた。 そんなところまで器具で再現はできない。無い物ねだりをしても始まらない、今ある状況で頑張るだけだ。何度も繰り返し挑戦した。 「あ~もうやってる。せつな、早いよ!」 「見てられないわね、ほら貸しなさい!」 「待たせてゴメンね、せつなちゃん」 「みんな……。どうして?」 「せつな抜きで遊んでも楽しくないよ」 「今日だけじゃ済まないかも知れないわよ?」 「いいわ、冬休みが終わるまでだって付き合うわよ」 「昨日だって、結構楽しかったよ」 みんな、せっかくの休みを返上して付き合ってくれるという。 せつなの胸が温かくなる。勇気が湧いてくる。そう、四人一緒で出来ないことなんてあるわけがないんだ! 「「「3――2――1――」」」 『GO!!』 十メートル、二十メートル、徐々にではあるが揚がる距離が高くなっていく。 しかし、そこまでだった。どうしても風に乗り切らずに落下してしまう。 あるいは、せっかく風に乗ってもバランスを崩して横滑りして落ちてしまう。 おじいさんが言っていた、職人の教えを思い出す。 (迷わず、一心に数をこなせ。後は指が教えてくれる) 一心に数をこなす。でも、それだけじゃ駄目だ! 指が教えてくれる? 指? 今までは、凧の動きを目で追って操作しようとしていた。それではタイミングがどうしても遅れてしまう。 指が握っているのは糸。何のために四十三本もの糸が取り付けられているのだろう? 操作するために決まっている。バランスを取るために決まっている。その四十三の糸を束ねる一本を自分は握っているんだ! 凧の動きは――風の動きは、糸が教えてくれる。それを指で感じとるんだ。そのために数をこなすんだ。 凧が大きいからって、自分の操作まで大雑把になる必要は無い。 大きくたって、繊細に作られている。そんなのわかっていたはずなのに。 感じろ! 空と自分とを糸で繋ぐんだ。 糸がたるむ前に引いてやる。糸が引っ張られる前に送ってやる。 これは大空と自分との綱引きだ。綱引きのコツなら知っている。ただの力比べなんかじゃないって! ほんの小さな風を逃がさずに掴む。風に対処するんじゃなくて、風を予測して操る。 徐々に、しかし、目に見えて凧が大きく揚がるようになって行く。 そして、ついに高く、高く舞い上がった! 「やった! 揚がった!!」 「せつなっ!」 「せつなちゃん!」 グングンと高度が上昇する。糸を送る速度が追いつかない。 そして、突風! せつなの腕がもげそうなくらい強く引っ張られる。両手で支えるものの、体が一瞬浮き上がり引き倒される。 そして、そのままズルズルと地面を引きずられた。 「痛ッ――!」 「せつなっ! 糸を離して!!」 せつなは決して離さない。そのまま数メートル引きずられて凧は落下した。 「くっ、後少しだったのに……」 「せつな、大丈夫?」 「平気よ、少しコツがつかめた気がするの。次は上手くやってみせるわ」 「良かった、でも明日にしよう。もう遅いよ」 せつなは惜しそうにしたが、あゆみのことを思い出して今日は引き上げることにした。 これ以上、心配をかけるわけにはいかないから。 そして、三日目の朝。これまでとは違う、自信を漲らせた表情のせつなが立つ。 目を閉じて静かに時を待つ。風の音を聞いているのだ。 そして、風の流れが変わる。目を開き――走り出す! 弾かれるように、速く――鋭く! 「「「3――2――1――」」」 『GO!!』 ラブと美希が勢いよく凧を上に投げ出す。祈里が足をほぐすように広げて離す。 せつなは凧を引きながら糸を操る。 時に引きながら、時に繰り出しながら。 そして、突風! 体重の無いせつなは、力で支えることができない。 右の持ち手を左で支える! 浮き上がった体を空中で丸める! 体が落下する力を利用して、更に凧を引き上げる。 丸くなって座り込み、地べたを這うようにしてコントロールを立て直す。 高く――高く――高く――凧が大空に舞い上がる。 一定以上の高度に達した凧は、抜群の安定感を見せる。 もう、バランスを崩すことはないだろう。 しかし、引き上げる力は強烈だった。有無を言わせない、大空を翔ける風の強大な力。 せつなは、腕が千切れそうになるような痛みに懸命に堪える。 握力も徐々に無くなり、限界を感じた時だった。 「おめでとう、せつな。もういいよね?」 「せつなは立派に一人で揚げきったわ、アタシたちが証人よ!」 「おめでとう、せつなちゃん!」 ラブ、美希、祈里がせつなの持つ糸を一緒に支える。 力負けしなくなった土台に支えられて、大凧は更に大きく飛翔する。 ブ――ン! ブ――ン! ブ――ン! と勇ましい音を鳴らしながら凧は飛び続ける。 後から聞いた話だが、これは風箏(ふうそう)と言って、和凧の特徴であり自慢なんだとか。 パチ パチ パチ パチ パチ パチ パチ パチ パチ パチ パチ パチ パチ パチ パチ パチ パチ パチ パチ パチ パチ パチ パチ パチ パチ パチ パチ あちこちから拍手が巻き起こる。 始めは無理と諦めて去っていった見物人たち。 しかし、せつなはあきらめなかった。その姿に自分を恥じ、こっそりと見守っていたのだ。 大凧を一人で揚げようとしている少女がいる。それが口コミになって、その数は何百人にもなっていた。 そして、その中から一人の老人が歩み寄った。 「よくやったな、お嬢ちゃん。いや、せつなちゃんだったな」 「おじいさま! 見ててくださったんですか!?」 「始めからずっと、この三日間通して見てたぜ。ここまでやるとは思わなかったがな」 「じゃあ、凧を――また、作ってくれますか?」 「ああ、俺にも火が付いちまったしな。最高の凧をこしらえてやる」 「ありがとうございます!」 「やったね、せつなっ!」 「おめでとう、せつな!」 「わたし、信じてた!」 四人、いや、五人が喜びあう中、たくさんの観衆がその周りを囲んでいく。 昔、凧で遊んだ思い出がよみがえった大人たち。 初めて凧が飛ぶ姿を見た小さな子供たち。 本来は男の子の遊びだった。 それを女の子が懸命に頑張って、巨大な凧を揚げた姿に己を恥じたのだろう。 あるいは血沸き、肉踊ったのだろう。 「その凧、僕にも作ってもらえませんか?」 「あっ、ずるい! 僕も!」 「じっちゃん凧作んのか? 俺のも頼むよ!」 「へっ、待ってな。家から山ほど持ってきてやるからな」 涙ぐんで喜ぶクローバーたち。そして、おじいさんの声も涙声だった。 「僕もやろうかな」 「それじゃあ、私も!」 「あらあら、お父さんたちまで」 「男の人って、こういうのに熱くなるのよね~」 「そこがいいんじゃない!」 圭太郎と正、あゆみにレミに尚子までいた。みんな、せつなたちを見守っていたのだ。 お疲れ様って、労いの言葉をかけていった。 「ふん、この街もまだまだ捨てたもんじゃないね」 「なんだ居たのかよ、梅干ばばあ」 「居て悪いかい? 凧じじい」 「ああ……。俺は凧じじいだ」 駄菓子屋のおばあさんも居た。きっと、ずっと見守ってくれていたのだろう。 ダルマのように着こんだ服装がそれを証明していた。 そして、盛大な凧揚げが行われた。 大小さまざまな凧が、ところ狭しと舞い上がる。 工房の無数の凧もすっかり空っぽ。その分、おじいさんの意欲は充実感で満ちていた。 クローバーたちも、思い思いの凧を揚げている。 おじいさんが、今度は小さな凧を揚げているせつなに話しかけた。 「やってるな、せつなちゃん。凧揚げはどうだ?」 「とても楽しいです。普段は見上げるだけの空が、手を繋いでいるみたいに身近に感じられて」 「それが凧揚げの魅力よ。わかってるじゃねえか」 「それに、コツをつかめたように思うんです」 「ふん、そこはわかっちゃいねえな。俺から見ればまだまだよ。見てな!」 おじいさんは手にした凧を顔の高さまで持ち上げる。 そのまま引きもせずに、スッと凧を離す。 落下するよりも先に、軽く手首をしゃくる。そのままスルスルと糸を送っていく。 まるで魔法でも見ているかのようだった。 おじいさんは一歩も動いていない。手も、小さく軽く数回振っただけだ。 それなのに、凧は空に吸い込まれていくかのようにグングンと高度を上げていく。 あっという間にせつなの凧を追い抜いてしまった。 「すご……い! おじいさまは作るだけじゃなくて、揚げるのも名人なのね!」 「当たり前よ! よく知りもしないものを作れるかってんだ!」 自信満々のそのセリフがおかしくて、せつなはクスッっと笑った。 そして、私もそう思いますって、力いっぱい返事した。 よく知らないものは、作ることもできなければ、広めることだってできはしない。 だから、自分はこの街に帰ってきたのだから。 幸せを学ぶために。みんなを笑顔と幸せでいっぱいにするために。その輪を大きく大きく広げていくために。 私――精一杯がんばるわ!
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その夜、ラブは、本当に大急ぎで夕飯とお風呂を済ませて来てくれたみたいだ。 まだ髪が少し湿ってる。 ベッドに潜り込み、私に手を伸ばして来る。 反射的に、少し身を引いてしまった。 「今日は、何もしないよ…。」 ラブは少し苦笑しながら私を胸に抱き込み、宥めるように背中をさすってくれる。 額に唇を寄せ、指が優しく髪を梳き、頬や肩を滑っていく。 胸いっぱいにラブの匂いを吸い込む。溜め息が漏れ、また涙が出そうになる。 あんまり泣いてばかりだと、ラブが困るのに。 きっと私は、ずっと、こんなふうにしてもらいたかったんだ。 ただ、優しく抱き締め、撫でてもらう。 何もかも包み込まれる、温かく、幸せな時間。 あの日、祈里との関係が始まってしまった日。 私が正直に話せば、ラブはこんなふうに抱き締めてくれたんだろうか。 ラブの胸に顔を埋めながら、私はポツポツと今までの事を話す。 いざ言葉を紡ぎ出すと、話せる事はそんなに多くない、と言うことに気づく。 ある切っ掛けで祈里と体の関係になってしまった事。 それ以降もずるずると会い続けていた事。 もう会わないと決めて、今日、そう祈里に告げた事。 それだけ。 恐らく、ラブが一番知りたいであろう『切っ掛け』、については、 話そうとすると舌が強張ってしまう。 隠したい訳ではない。 ただ………、どう言っていいかわからない。 事実をそのまま話す。それが一番いいのだろう。 でもそうすると、どうしても祈里を責めるような言い方になってしまう気がするのだ。 「無理しなくていいよ……。」 私が言葉に詰まる度、ラブはそう言ってくれる。 ひょっとしたらラブも聞きたくないのかも知れない。 そんな都合の良い思いが頭を掠める。 さっきのラブの言葉も相まって、ますます私の口は重くなる。 『せつなが言いたくない事は、言わなくていいんだよ。』 こんな事になってまで、ラブに甘えている。すべて話そう、そう決心したのに。 抱き締められ、胸の中で甘やかしてくれるラブにすがりついている。 「……困ったコだね、せつなは…。」 不意に、ぎゅっと私を抱いていたラブの腕に力がこもる。 「あのね、せつな。他所で辛い事があったらね、 ただ泣きながら帰ってくればいいの。」 そしたら抱っこして慰めてあげるんだから。 そう言って、ラブはますます力を入れてくる。 まるで、私を自分の中に包み込んでしまおうとするように。 まるで子供をたしなめるような口調のラブに、私は少し苦笑したくなる。 「……なんだか私、小さな子供みたいね……。」 「小さいコだよ!夏に生まれ変わったばっかなんだから。」 赤ちゃんみたいなもの!ラブはそう言い切って私の髪をクシャクシャに掻き回す。 まぁ、確かにこちらの常識は知らないし、人付き合いも下手だし…… でも、ハッキリそう言われてしまうと…… 「うん、何か分かった。これが足りなかったんだよ!あたし達には!」 ラブは唐突とも思える言葉で私の物思いを遮る。 何が?と問う間もなく…… ぎゅう…とまたラブが抱き締めてくる。 「……気持ち良い?」 戸惑いながらも、私は素直に頷く。 「他には?」 温かい。良い匂い。安心する。 私は思い付くままに言葉を並べる。それから…… 「……ラブが、大好き……。」 「うん!あたしもー!」 にゃはは、といつもの笑い声を上げ、ラブがぐりぐりと頬擦りしてくる。 「せつなにはね、抱っこが足りなかったんだよ。」 「………抱っこ…?」 「そう!」 ラブが私の頬を両手で挟んで見詰めてくる。 「だから、あたしはせつなに信じてもらえなかったんだよ……。」 意味が、分からない。 ラブは何を言ってるの? 私そんな事、考えた事もない。 私がラブを信じない、そんなの想像すら出来ないくらいなのに。 慌て反論しようとする私の唇をラブが人差し指で押さえる。 「あたしは、せつなを安心させてあげられてなかったもんね。」 本当に、ラブは何を言ってるの? 私がラブを信じてない?安心してない?どうして? 愛情も、安心も溢れるくらいもらってる。 現に今だって、こうして抱き締めてもらってる。 裏切りの言い訳一つ、まともに出来ない。 ラブの優しさに甘えて、罪の告白すら中途半端にしか出来ない。 臆病で脆弱で、傷付けたラブに甘える事しか出来ない私なのに。 「せつな、怖かったんでしょ?あたしに嫌われるかも……って。」 だから、何も言えなかったんだよね? 「傷付いてるせつなを見て、あたしが嫌ったりすると思った?」 それが、どんな原因でも。 「いーっぱい抱っこされて、愛されてる自信のある子はね、外で泣かされて 帰って来てもね、また抱き締めてもらえばすぐに泣き止めるんだよ。」 だから、あたしはせつなの心をもっと抱き締めてあげなきゃいけなかったんだよ。 「ごめんね、せつな。」 ラブが見つめる。胸の奥がきゅっと苦しくなる。 どうしてラブが謝るの?ラブは何も悪くないのに。 それなのに、私は、もっと愛してもらえるの?どして? どうして、ラブはこんなに私なんかを大事にしてくれるんだろう。 「せつなは、もっと欲張りになってもいいくらいなんだよ?」 ちっちゃい子がママに抱っこせがんだって誰も笑わないでしょ? もっともっと我が儘言ってもいいんだよ。 ラブはあくまでも私を小さな子供として話を進めようとする。 私は悪くない……。そう言ってくれてる。 小さな子供が些細な失敗を隠す為に、見え見えの嘘をつく。 その嘘を誤魔化す為にまた嘘を重ねる。 でも結局、小さな子供はそんな自分に耐えきれなくて、最後は泣いて お母さんに謝る事になる。 だって、お母さんはいつだって許してくれるから……。 「ラブは……私のお母さんなの?」 「まっさかぁ!あたし達はラブラブの恋人同士でしょー?」 「だから抱っこ以外も色々しちゃうんだもん。」 ラブは私を抱き締めたまま、チュッと唇をついばんでくる。 「………んっ……」 優しく柔らかな感触に、思わず甘えた吐息が漏れる。 「コラコラ、そんな声出さないの。……続き、したくなっちゃうでしょ……?」 「………しても、いいのに……。」 ラブは困った顔してる。ホントに私は構わないのに……。 ラブさえ嫌じゃなければ……。 「あのねぇ、今までがおかしかったの。具合の悪いせつなに色々してた あたしは、すごーく悪い子だったの。だから今、反省中。 せつなが元気になるまで我慢しなくちゃダメなの!」 間違ったり、失敗するのは仕方ない事。 それに気付いたら、反省して、やり直す。 それしかないよね? 「今せつなに必要なのは、ラブさんの愛情たっぷりの抱っこ! それに、たくさん眠る事だよ。」 ラブの優しい声。温かい手。柔らかく、包んでくれるぬくもり。 「……はい…。」 「うん、いいお返事です。」 幸せだ……と感じる。 もう二度と戻れない。そう思っていた場所は、以前よりも優しい場所になって 私を迎えてくれた。 まるで羊水にくるまれた胎児のように、安らかな微睡みに誘われる。 うつらうつらと暖かい闇に意識を持って行かれそうになる中、 一人の面影がちらつく。 (………祈里…………) 彼女はまだ、冷たい闇で一人うずくまっているのだろうか。 どうすれば、彼女にも安らかな微睡みが訪れるのか……。 ラブのぬくもりに包まれて、せつなは長く忘れていた深い眠りの中に漂っていった。 4-590へ
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【おしおき】/恵千果◆EeRc0idolE 「聞いてよ美希ぃ! ラブったら昨日部屋に来るって言ったくせに、 待っててもちっとも来やしないの。 あんまり待ちきれないからこっちから行ったら、 気持ち良さそうにスヤスヤ眠ってるのよ。 もう腹が立つとか呆れるとか通り越して、笑っちゃった」 「ふふっ。ラブらしいわね。それで?その後せつなはどうしたの?モヤモヤしてたんでしょ?」 「うっ…そこを突いてくるとは…流石ね、美希」」 「慰めちゃった?」」 「まさか!美希じゃあるまいし」 「…何よその言い草は」 「あら怒った?」 「そんな事で怒る訳ないじゃない。せつなじゃあるまいし…ニコッ。それで?」 「(何かヤな感じ…)無防備なラブに遠慮なく襲い掛かったけど何か?」 「わかってたけど、せつな…アンタって容赦ないわね」 「何よそれ、アナタも襲われたいの?」 「…別に結構よ」 「じゃあまず手でも繋いでみる?…あら顔が赤くなったわよ。ゆでダコみたい」 「そんなこと言うお口は…お仕置きよ!」 ちゅっ 「…悪くないわね」 「…そうかもね」
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「ん・・・」 うっすらと目を開けると、窓の外には既に夜の帳が降りていた。 事後の何とも言えぬ気だるい空気に包まれながら、せつなはゆっくりと身を起こす。 身支度を整えながら、せつなはこの数日を振り返る。 いつでも優しく迎え入れてくれる父母と過ごした暖かいひと時。 固い絆で結ばれた親友達と過ごした楽しいひと時。 ―――そして、最愛の人と過ごした甘いひと時。 また新たに増えたそれらの思い出を胸に、せつなは再び旅立つ―――復興の地へ。 「ん・・・せつな・・・」 未だ夢の中にいるであろうラブを見やり、せつなは小さく呟く―――ごめんなさいと。 そして、先程まで自らが横になっていた空間に手をつき、ラブにそっと口付ける。 ―――また戻って来るという誓いを込めて。 眩いばかりの赤い光が瞬き、すぐに消え去る。 静寂に包まれるラブの部屋。 ラブの目尻から一粒の滴がすっ、と流れて落ちた。
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「小料理屋『よつば』心を込めて準備中」/ねぎぼう 『準備中』 札を裏向け、暖簾をしまうと、今夜の小料理屋『よつば』はいつもより早い看板となった。 (大女将、ごめんなさい!) 今は亡き先代の女将に心のなかで謝る新米女将ひとみ。 「さ、いこっか!」 数少ないお品書きであるつみれを焦がしてしまい、失意のひとみに 『ハンバーグ作るからご飯食べにおいで』と誘ってきた不思議な客。 しかしそこには裏表を感じさせない明るさがあった。 「あのぉ~ほんとにいいんですか?」 「もちろんだよ!皆で夕ごはん食べたほうが美味しいもんね」 「でも、お客さんウチで飲んで……」 「今日は月に一回の『お外でちょっとは飲んで帰ってもいい日』なんだよ」 「(クスッ)そんな日があるんですね」 などと話しているうちにラブの家に着く。 実家からは独立して、今は小さなマンションで暮らしていた。 「ただいまー!」 二人を黒髪の女性が出迎える。 「おかえりラブ、早かったのね。このお方は?」 「小料理屋『よつば』のおかみさんなんだ」 ひとみは、ラブの後ろから申し訳なさそうに尋ねた。 「ほんとに……?」 「もちろん!みんなおうちでゆうごはーん、だよ。さ、上がって」 ラブに背中を押されるような格好になる。 「……おじゃまします」 「いらっしゃいませ。せつなです」 「(小声で)あの時の友達なんだ」 『よつば』での会話を思い出す。 「えーっ!つみれ煮込んで干物煮込まずの?」 「おーっとっとっ……うっかりお店のつみれ焦がしちゃったんだよね!? 今夜はお家でハンバーグ作っちゃうよー!」 「ラブ、ずるいわ。それならコロッケもよ!」 (ラブさんにせつなさんって言ったよね?まさかあの四つ葉町を救ったという伝説の?) 新米女将ひとみが先代女将から四つ葉町を救ったヒーローがいることは聴かされていた。 その中の二人が今目の前にいる。 (しかも、普通に……料理しているし) 「おかみさん、ラブちゃん特製激ウマハンバーグ見ていってね」 「私のコロッケもなかなかのモノよ。精一杯、頑張るわ!」 二人はエプロンをつけると、めいめい食材を手にして調理を開始した。 違う料理を作っていながら作業がかち合うことがない。 「ミンチ少し分けてね」 「オッケー!」 「ニンジンもちゃんと入れなきゃダメよ」 「やっぱりダメ? じゃ、ピーマンも入れよっか?」 「……私は、ちゃんと食べるから」 「せつな、顔が青いよ?」 「何でもないわ!」 掛け合いの中で着々と調理が進む。 そういえば、依然先代の女将に連れられて料亭に見学したときにも 何人もの板前が多彩な注文をこなしているのをみた。 その時は板前が淡々とこなしているだけであったが、 今夜のこの二人は何気にリンクまでしている。 「お待たせ!ちょっと遅い時間だから、そんなに品数できなかったけど」 「いえいえ、そんな……」 食卓には、レストランに並んでいてもおかしくないようなハンバーグと コロッケと付け合せが並んでいた。 お客に料理を出すのが仕事なのにまだ「つみれ」と「干物」しか できない自分が恥ずかしくなる。 「冷めないうちに食べようか?じゃ、いただきます!」 「……いただきます」 ひとみは付け合せのニンジンの金平に箸を延ばした。 「え……美味しい」 「おかみさん。ちゃんと作れてますか? ラブ自身ニンジンが苦手だから……」 「せつなー、ちゃんと作ってますよう」 続いてラブ自慢のハンバーグに箸をつけた。 女将さんを迎えることを意識してか照り焼きソースで仕上げていたが、 箸で割れるくらいでありながら箸で挟んでいても型崩れしないという バランスの良い固さを保っていた。 「美味しいです。ビールにも合いますね」 「でしょ?せつな、ビールもう1本いい?」 「ダメよ、もう飲んできたのでしょ? おかみさんはもう1本いかがですか?」 「ありがとうございます、恐れ入ります。十分いただいております」 せつなのコロッケを箸で割るとほのかに湯気が上がる。 口にするとじゃがいものホクホク感に、ミンチ肉が宝石のような煌めきを示した。 「せつなのコロッケ、明日も頑張ろうって気になるんだー」 「やだ、ラブったら」 (明日も頑張ろう……か) 先代の女将が生前に “私達の仕事はただ酒と料理を出すだけじゃない。明日への元気をお土産にしてもらうことなんだよ” と言っていたことを改めて思い返した。 大女将の思いを胸に、コロッケのミンチ肉を噛みしめる。 「あの……すみません。ひょっとして、貴女達は四つ葉町のあの……」 「覚えてくれている人、いたんだね。うん、昔プリキュアだったんだ」 「私はかつてこの街で……」 「でも、一番強くて優しいプリキュアになった。それでいいじゃない」 「ラブ……」 (『いろいろ大変だったこと』を超えて今があるのね……) ひとみはこれ以上『つみれ煮込んで……』の話を蒸し返すべきでないと感じた。 「ね、おかみさんの幸せって何?」 「え?」 新米女将は先代の女将に四つ葉町の老舗小料理屋の女将の跡継ぎに 突然指名されてこの街にやってきたことを思い起こした。 勝手もわからぬまま「干物」と「つみれ」がやっと作れるようになった矢先に先立たれた。 引き継いだ看板は守っていかなきゃ。 とはいえ、まだまだできることは少ないうえに、競合店との争いにも疲れる毎日。 「お客さんの……笑顔ですかね」 つみれと干物しか作れないことで客足が少しずつ遠のいていくという現実。 その中でなけなしのつみれが大女将の味に少しずつ近づいていることを喜んでくれる客。 その言葉がひとみの本心であることが感じられたせいか、ラブもせつなも笑顔でその言葉を返した。 (そうだ、私ばっかりが元気をもらっているんじゃいけない。私からも元気をあげなきゃ!) 「ラブさん、せつなさん、今度ハンバーグとコロッケの作り方を改めて習いに来てもいいですか?」 「いいよ!おかみさんもつみれの作り方、教えてほしいなあ」 「はい、喜んで!」 「レパートリーも増えて、幸せ、ゲットだよ!」 * 翌日、仕込みのために店に入った新米女将ひとみは誓った。 (ハンバーグとコロッケがちゃんと作れるようになったら、お店のお品書きに加えよう。 まずはお客様が元気になれるよう、心を込めてつみれと干物を作らなきゃね!) 夜が来て、ひとみは暖簾をかけた。 (昨日は早じまいごめんなさい。今日は元気を増量しますから) そして、昨日は申し訳なさげにひっくり返した札を今日は決意を込めて戻す。 『営業中』
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翼をもがれた鳥 第9話――ただ一度きりの飛翔―― せつなとの出会い。 せつなとの時間。 せつなの声。せつなのしぐさ。 せつなの笑顔。そして、せつなの……涙。 そういえば、ちゃんと考えたことなかったよ。 どうして、あたしはプリキュアになったのかってこと。 みんなで幸せをゲットしたかった。ただ、その想いだけだった。 せっかく生まれてきたんだもの。あたしは幸せになりたかった。 せっかくみんなと出会えたんだもの。みんなにも幸せになってほしかった。 でも、今、はっきりとした目的ができた。 あたしが何よりも望んでいるもの。 どうしても手にしたいもの。 この出会いは、決して偶然なんかじゃないから。 ありがとう、ピルン。あたしをプリキュアに選んでくれて。 待っててね、せつな。何も心配しなくていいからね。あたしが……。あたしが必ずなんとかするから! 『翼をもがれた鳥――ただ一度きりの飛翔――』 全ての、始まりの場所。 道に迷ったラブが、運命の糸に手繰り寄せられるように立ち寄った場所。 占いの館。もう――その姿は見えないけれど。 あの時は、せつなが迷ったラブを導いてくれた。 今度は自分の番だと思った。 出口のない迷宮に囚われたせつなを救い出す。 (あたしの――全てを賭けて!) 心の整理がついた。不安もある。未練もある。心残りもある。 でも、それらを乗り越えて、果たしたい願いがあるからここに来た。 キュアピーチの瞳が大きく開かれる。 「ウエスター! サウラー! 見ているんでしょ、話したいことがあるの!」 ほどなくして空間が歪み、扉が開かれる。 先にウエスターが、そして、けだるい表情でサウラーも姿を見せた。 殺気を纏うウエスターとは対照的に、つまらなさそうにピーチを眺めるサウラー。 彼はピーチの様子から、戦いに来たわけではないことを見抜いていた。 「昨日の焼き直しのつもりか? 今度は返り討ちにしてやろう」 「待つんだ。キュアピーチは話したいと言っていたよ」 「先に聞いておきたいことがあるの。あなたたちも寿命を管理されているの?」 「当然だ! ラビリンスの国民は皆そうだ。全てはメビウス様のために存在するのだからな」 「そういう事だね。まわりくどい話は御免だ、君が聞きたいのはイースのことだろう?」 「お願い、せつなの寿命管理を解いてほしいの」 「ふざけるな! そんなことができると思っているのか」 「管理はクラインが行っている。その判断を下すのはメビウス様だ。僕らの意思の及ぶところじゃない」 「うん、わかってる。なら――メビウスに会わせて!」 「お前、意味がわかって言ってるのか?」 「いいだろう、約束はできないが手配はしてみよう。ただし、変身解除とアイテムをここに残していくのが条件だ」 「……持ってこいと、言われると思うんだけど」 「その手には乗らないよ、必要なら後で回収する。僕らには触れられないらしいからね」 しばらくの間逡巡する。断れば、ここで戦いになるだろう。二対一で……。 勝敗は問題ではない、それでは目的が果たせないのだ。 ピーチは変身を解除して、リンクルンを地面に置いた。 「――これで、いいんだね」 「付いて来たまえ」 サウラーは、確認もせずに背を向けて館への扉を開いた。ウエスターが一度だけ振り返り、同じく歩を進める。 ラブは硬く拳を握り締め、後に続いた。 主を失ったリンクルンに、細く白い手が伸びる。 一足遅かった。駆けつけたイースが目にしたのは、争った跡すらない草むらに残された、変身アイテムだけ。 恐る恐る手を伸ばす。前回触れた時は、激しい光とともに雷に打たれたような衝撃が襲った。 だけど、放っておくことはできない。これは――ラブにとって大切なもの。 触れた瞬間に光り、軽い痛みが走る。しかし、その後は静かにイースの手に収まった。 「ありがとう、しばらく我慢してね」 懐に大切に入れて、館への扉を開く。住み慣れた家に戻るだけなのに、緊張で体が震える。 恐怖ではない。もとより保身に興味もなければ意味もない。 ただ、上手くやらなくてはならない。 ラブを救い出すだけでは足りないのだ。ここに来た目的――ラブの笑顔と幸せを守ること。 それを妨げるものを、排除しなければならない。 そのうちの一つが自分自身の命。そして、自分がこれまで集めてきたもの。 (急がなければ……) ラブが本国に送られてしまったら、もう手の打ちようがない。ウエスターとサウラーが付きっきりになっている今がチャンス! イースは館の地下を目指して走りだした。まずはコントロールルームから。警備カメラの映像を、録画画像に差し替えて無力化する。 転移装置を破壊して、送還を止める。 口元にわずかに笑みが漏れる。謀反が知れればそこまで。後、どのくらい生きられるかわからない。ラブのことも心配だった。 そんな状況の中でも、少しだけ楽しいと感じる自分がいた。 ほんの数日前まで、最も忠実なしもべを自称していたイースが反逆を企てている。 命令でもなく、任務でもない。自分自身の望みに従って判断し、自分だけの目的のために行動する。生まれて初めて手にした自由。 それが――楽しいと思った。たとえ、一瞬の輝きであったとしても。 目的の部屋に到着する。無数の機器に囲まれた一室。 光点の一つ一つが超空間回線であり、特殊な計器であり、優れたコンピューターでもある。 そのうちの一つに触れる。画面が開き、キーボードが現れる。 並みの者では使いこなせない煩雑な操作。しかし、イースはその扱いに幹部の誰よりも長けていた。 力でウエスターに劣り、頭脳でサウラーに劣る彼女が、幹部に選ばれた理由。 高い適応能力と記憶力。一度見ただけで、その技術を自らの力とする能力がイースにはあった。 監視モニターカット。 転移装置、電力ダウン。 異空間通信装置、ジャミング起動。 館の座標軸修正、館の隠蔽モード解除。 不幸のゲージ、自爆時限装置起動。 ERROR ERROR ERROR ならば―― 不幸のエネルギー供給装置爆破。 ERROR ERROR ERROR そして、画面がエラーの文字で埋め尽くされる。全ての操作を受け付けなくなる。 部屋が赤く点滅し、非常警報が鳴り響く。 「くっ、失敗したというのかっ! 次は無いというのに――」 プロテクト解除の手順は完璧だったはず。あらかじめ、このような事態を予測したプログラムを組んであったとしか思えない。 拳を叩きつけて、操作していた端末を破壊する。 もう――一刻の猶予も無かった。後は時間との戦い。 イースは不幸のゲージの間へと急いだ。 占い館の前。焦りの表情を隠そうともしない、ベリーとパインが立ちすくんでいた。 必死になって入り口を探すが、それらしきものは見当たらない。 大声を張り上げもした。威嚇の技を放ちもした。しかし、どれも反応を得ることはできなかった。 「キュアスティックなら破れないかな?」 「駄目だと思う。イースが通常の手段では干渉できないと言ってたわ」 「シフォンちゃんに来てもらえば、もしかしたら何とかなったかもしれないね」 「うん――ゴメン。アタシの判断ミスだった。先にラブの家に寄るべきだったわね」 「ベリーのせいじゃない。シフォンちゃんを危険に巻き込みたくなかったんでしょ」 「そうだけど……。アタシ行って来る!」 「待って! なんだか様子がおかしい」 周囲の木々が大きく揺れ動く。地響きをあげながら巨大な建築物が具現化する。 一瞬後には、始めからそこにあったかのように、占い館がその姿を取り戻していた。 「出入りなら、空間の扉を開けばいいはず。一体、何が起こっているの?」 「とにかく急ごう! ベリー」 ベリーとパインは、館の扉を開いて飛び込んだ。 入って直ぐの昇りの階段。その後ろに、隠れるように配置されている降りの階段。 どちらに行けばいいのか? 迷いが焦りを呼ぶ。この選択のミスが致命的な遅れを招くかもしれない。 「どうしよう、ベリー」 「下に行くわよ。大切な物や場所は地下に設置するはず、その方が安全だから!」 パインは力強く頷いた。同じ意見であったのだろう。二人は地下へと降りていく。 いくらも進まないうちに警報が鳴り響く。 自分たちの進入が見つかったのだろうか? しかし、館をわざわざ出現させておきながら警報もおかしな話だった。 もともと隠密行動できるなんて期待していたわけでもない。成すべきことは同じ! 二人は更に足を速めて下層へと急いだ。 黙々と、地下への階段を降り続けるサウラーとウエスター。少し遅れてラブが続く。 拘束も何もされていない。しかし、そこに自由があるわけではない。 彼らの力は常人の数千倍もあり、プリキュアすら肉弾戦だけなら凌ぐほどだ。変身を解除し、リンクルンを失ったラブは普通の十四歳の女の子にすぎない。 彼らの視界に納まっている以上、囚われているに等しかった。 一歩階段を下るごとに恐怖が募る。どこに連れて行かれるのか。 いや、それはわかっている。ラビリンス本国、メビウスの元だ。それは自分自身で望んだこと。 せめて、リンクルンが腰にあればと思う。そうすれば、こんなに不安に心を塗りつぶされることは無かったろう。例え、戦力差が絶望的であったとしても。 言っても仕方ないことだった。自分の見通しが甘かっただけ。感情にまかせて、飛び込むように来てしまった。 こんな時、いつも美希が叱ってくれたのにと思う。祈里が心配して、引きとめてくれたのにと思う。 そんな二人を突き放したのも自分自身。 二人とも、自分のことが心配で仕方なかっただけなのに。 心配してくれる人がいることは幸せなんだって、わかっていたはずなのに。 (せつな……) 心の中で、そっと名前をつぶやく。それだけで心が温かくなった。勇気が湧いてくるような気がした。 そうだ――もともと力で押せるような状況じゃないのはわかっていたこと。 それでも助けたかった。生きていてほしい人がいた。だから――ここに来たのだから。 しっかりしなきゃ! と自分に言い聞かせる。まだ、何も始まってすらいないのだから。 メビウスと対峙して、せつなの寿命管理を解かせなくてはならない。 説得が通じる相手とも思えない。何か交換条件が必要となるだろう。 もうプリキュアにすらなれない以上、それがどのようなものであっても呑むつもりだった。 (美希たん、ブッキー、ごめん。後のことはお願いね) 目的の場所に着いたのか、サウラーの足が止まる。 そこは大きな部屋だった。中央の巨大な装置に、円形の台座が備え付けられている。その周囲を、またいくつもの計器類が取り囲む。 科学の知識なんてないけれど、なんとなくそれが転移装置なんだろうと思った。 サウラーがパネルらしきものを開き、誰かと通信し始めた。 「お久しぶりですね、サウラー。どうかなさいましたか」 「クライン、イースのことは承知しているんだろう?」 「ええ、あなた方の報告には目を通しています。それ以上のことも調べていますよ」 「ならば話は早い。プリキュアのリーダー、キュアピーチを確保した。メビウス様に会いたいそうだ」 「お会いするかはメビウス様がお決めになられること。ご報告はしておきましょう。あなた方はキュアピーチを護送してください」 「そのつもりだ。今からそちらに向か――」 突然、映像が乱れる。通信回線がノイズとともに遮断される。そして―― 「変だな、転移装置が動かないぞ。おい! サウラー、どうなっているんだ」 「それはこちらのセリフだ。また叩いて壊したんじゃないだろうね?」 地震のような揺れを感じる。そして、非常警報が鳴り響く。 これは第一種警戒体制。つまり直接建物内に何者かが入り込み、攻撃を加えていることを意味していた。 もちろん、ウエスターとサウラーにとっても初めてのことだ。 「一体、何が起こっているのだ!?」 「君も少しは手伝ったらどうだ! 館の隠蔽モードが解除されている。プリキュアの仕業かもしれない」 「どうして中に入れたんだ!?」 「それを今調べている。――だめだ、モニターには何も映っていない」 戦闘体制と言っても、他に戦闘員がいるわけではない。館に迎撃用の装備があるわけでもなかった。 危険を知らせるためのものに過ぎない。 高すぎる潜伏能力。隠蔽モードがあるがゆえに、一度内部に潜入されると脆い構造になっていた。 サウラーは侵入者の位置を探ろうと、ウエスターは通信装置と転移装置を回復させようと躍起になる。 しかし、どのような手段でロックがかけてあるのか、それぞれの機能は全く操作を受け付けなくなっていた。 唯一、転移装置だけは電力供給を切られているだけだった。もともとこの装置は、その性質上遠隔操作を受けないように作られている。 手動で再接続する。あと、数分で使用可能になりそうだった。 混乱しているのはラブも同じだった。何が起こっているのか? プリキュアの仕業かもしれないとサウラーが言っていた。一瞬喜び、すぐに不安に変わる。 それではダメなんだ。襲撃でいいなら、ラブは一人で来たりはしていない。 ここで実力行使に出たら、せつなが―― もう、せつなを救う手段がなくなってしまう。必ず――なんとかするって約束したのに! 決意してここにやってきた。何が起きても、せつなだけは助けるって誓いを立てた。 なのに何一つ思い通りにならず、成す術もなく成り行きに身を任せるしかないなんて―― ここに来た時の自信が音を立てて崩れていく。 プリキュアの力に甘えて、なんでもできる気になっていた。本当の自分は、無力な中学生の女の子に過ぎないことも忘れて。 絶望の淵でせつなの救済を祈るラブの前に、黒い人影が歩み寄ってきた。 ラビリンス四大幹部の一角、イース。この館の主の一人。本来居てしかるべき人物の到来に、一同が凍りつく。 その表情は自然体で、何の感情も映していない。数日前まで彼女の心を支配していた焦燥感も感じられなかった。 「なにやら騒がしいわね。そこをどいて。お前がやっていたのでは日が暮れるわ」 「イース……。無事だったのか!」 「いつ……戻ったんだい、イース」 「せつ……な? どうして……ここに……」 「もう平気よ。今帰ったばかり」 喜びを露わにするウエスターと、怪訝な表情を浮かべるサウラー。そして、驚愕に目を見開くラブ。 イースはラブには応えず、一瞥もくれず、ウエスターを押しのけるように転移装置に近づく。 そして、メインコントロールパネルに拳を振り上げて――叩きつけた! 「イース! 何をするっ!」 「気でも触れたのかい? イース」 「せつなっ?」 「なんとでも言うがいいわ。これでもう、当分はラビリンスへの行き来はできなくなった」 「なるほど、一連のトラブルは君の仕業というわけだね」 「イース、お前は自分のやっていることがわかっているのか?」 「ラブ、私はあなたに伝えていない想いがあったの。ありがとう――あなたと出会えて、楽しかった」 イースはラブと向かいあい、優しく微笑んだ。氷のようなイースの表情に、花が咲いていくように柔らかな感情が宿る。 それは嬉しそうな笑顔――でも、やっぱり、儚げで寂しそうな笑顔だった。 ようやく事情が飲み込めて、怒りの表情を浮かべるウエスター。そして、サウラーは警戒しつつイースとラブの間に割って入る。 ラブの瞳に涙が溢れる。その言葉は嬉しかった。気持ちが通じたのは嬉しかった。 でも、それはあきらめの言葉。そして、お別れの言葉だった。 そこに聞こえてくる足音。新たなる来訪者。キュアベリーとキュアパインが扉を叩き破って現れた。 「ラブっ! 無事?」 「ラブちゃん、助けに来たよ!」 これで、三対二。分の悪くなったのを察して、サウラーがラブを拘束する。プライドの高い彼にとって、それは屈辱的な行為だった。 普段なら撤退を選んでいただろう。しかし、ここは本拠地。大切な不幸のゲージの保管場所。それも許されなかった。 展開に付いていけないウエスターとラブ。しかし、イースに動揺はなかった。館を戻し、ベリーとパインを呼び込んだのも彼女だった。 不敵に笑うと、右手に収まる小さな機械を掲げた。 「全員動くな! 不幸のゲージの間と道中に爆弾を仕掛けてきた。この意味、おまえたちならわかるはずよ」 「よせっ! そんなことをしたら」 「本気で反逆するつもりのようだね。その命、もう長くないと思うよ」 「そうね、でもスイッチを押す時間くらいはあるわ。サウラー、ラブを離して! ベリーとパインは、ラブを連れてここから脱出して」 「せつなっ……あなた……」 「せつなさん!」 「ダメだよ、せつな。それじゃせつなが!」 「そうはいきませんよ、イース」 突如空間が歪み、初老の男が出現する。痩せ型で神経質そうな顔。どう見ても武官ではなく、文官のような印象だった。 空間に浮いたまま近づいてくる。 「サウラー、あなたはその娘を転移装置に乗せてください。座標は本国から誘導します」 「ラブっ! そうはさせない!」 「ラブちゃん!」 「動けばその娘がどうなるかわかりませんよ。生身の人間など、この場の者なら撫でただけで首が折れます」 「よせ! クライン。このスイッチが見えないのか!」 「イース、あなたには失望しました。メビウス様の命により、あなたの寿命を今日ここまでとします」 クラインが空間から出現させたキーボードを弾く。死を告げるコマンドが入力される。 イースの体に深く刻み込まれた“強制”が発動する。――生命活動停止の指令が脳に送信され、全身に伝達される。 イースは声を上げることもなく、突然崩れ落ちた。糸の切れた、操り人形のように―― 当然、予測されたことだった。少なくとも、ウエスターとサウラーには。そんな彼らにすら、あまりにも唐突な別れだった。 クラインの宣言。そして、動かなくなったイース。しばらくしてから、ようやくラブたちにも状況が理解できた。 突然で、乱暴で、理不尽で、とても受け入れられない現実。ラブの心を満たすのは、悲しみではなく否定の感情だけ。 「せつ……な? せつな……せつな……。いやぁぁぁあああ!!」 「せつなさん……」 「クッ……なんてことを。あなたたちは仲間じゃないの?」 倒れたイースをつまらなさそうに眺めてから、クラインは地面に降り立った。 ベリーの問いかけには答えず、そのままラブの方に歩み寄ろうとする。 そして、突然後ろを振り返った。その目が驚愕に見開かれる。 彼の視線の先にある異変。 死んだはずのイースの体が――小刻みに震えていた。 第10話 翼をもがれた鳥――よみがえる白き翼――へ続く
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「月の下」ラブver/SABI 「暑さ寒さもお彼岸までっていうけど、 イヤー今日は、涼しいを通り越して、寒いくらいだよ。」 「そうね、今日はちょっと肌寒いわね。」 あたしとせつなは、いつもお風呂上がりに ベランダに出て、おしゃべりしてる。 あたしは、あたしの話にうんうんとうなずくせつなの横顔や、 あいづちを打ってくれる少し低い声が大好きで、 ついつい長話をしてしまう。 でも、あたしとせつなは学校が同じで、登下校も一緒。 しかも、ダンス練習も一緒となれば、 あたしがせつなのことで知らない事、 せつながあたしのことで知らない事を見つけることの方が難しい。 あたしの話は、せつなだって知っていることがほとんどなのに、 それでも、嫌がりもせず、むしろ喜んで聞いてくれるのが嬉しい。 今日も話に熱が入りすぎたらしい。 気がつくと、せつなの肩は震えていた。 「もう部屋にもどろう」 そう言ってあたしは、せつなの右肩に右手を置き、肩を抱くようにすると、 せつなはあたしの右手に自分の左手を重ね、首をふるふると横に振る。 「ど、どうしたの?」 あたしは慌てて顔を覗き込むと、 あたしの肩口に顔をうずめ… 「も……、すこしこのままで…」 せつなが囁く。 寄り添う二人を見つめるのは、中天にかかる今宵の満月のみだった。 了 ラせ2-27は、せつな視点